文書作成日:2025/01/14
昨年10月の衆議院議員選挙以降、所得税の壁である年収103万円の壁を中心に、「年収の壁」が話題になっています。この年収の壁は、100万円、103万円、106万円、130万円、150万円および201万円の壁があると言われることが多く、これらのうち、106万円および130万円の壁が社会保険の壁と言われています。そこで今回は、この社会保険に係る年収の壁について解説します。
[1]年収106万円の壁
106万円の壁とは、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)51人以上規模の企業で勤務するパートタイマー等が、社会保険(健康保険・厚生年金保険)へ加入する年収額のことです。一般的に年収106万円と表現されますが、正確には年収で判断するのではなく、「月額賃金8.8万円」で判断します。この月額賃金を年収換算したおおよその額が106万円であり、年収の壁として表現されています。
なお、社会保険への加入は、月額賃金以外にも「週の所定労働時間が20時間以上であること」といった要件があるため、月額賃金8.8万円以上となったとしても、週の所定労働時間が20時間未満であれば原則として社会保険には加入しません。
[2]年収130万円の壁
年収130万円は、原則として60歳未満の人が、家族の健康保険の扶養(配偶者の場合には国民年金の第三号被保険者)として認定を受けられる基準の年収額のことです。
年収130万円以上となると、扶養として認定を受けることができないため、国民健康保険に加入し保険料を支払うことになります。また、国民年金の第三号被保険者は第一号被保険者となり、これまで直接支払う必要がなかった国民年金の保険料の支払う必要が出てきます。
[3]年収の壁を超えることの影響
社会保険に係る年収の壁は、壁を超えることにより、社会保険料の新たな負担が発生することになり、本人の手取り額が減ることになります。所得税に係る年収の壁は、この点で大きく異なると言われています。
なお、年収106万円および130万円を考えるときの収入の考え方は下表のとおりであり、同じ「社会保険」や「年収の壁」という表現を用いたとしても、細かな違いがあることにも注意が必要です。
表 年収106万円、130万円の壁の対象となる収入(〇:対象 ―:対象外)
基本給 諸手当 | 家族手当 通勤手当 など | 時間外手当 休日手当 など | 賞与 など | 不動産収入 事業収入 配当収入 など | |
106万円の壁 | 〇 | ― | ― | ― | ― |
130万円の壁 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
社会保険の加入要件の見直しについては、今年の通常国会に改正法案が提出される見込みです。その内容は、今後、改めて確認したいと思います。
■参考リンク
厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
- 2025年1月20日から始まる退職者のマイナポータルに離職票を送付するサービス2025/01/07
- 今後数年のうちに施行される人事労務関連の法令改正2024/12/31
- 2025年4月1日から支給率が低下する高年齢雇用継続給付2024/12/24
- 健康保険 資格確認書と資格情報のお知らせの再交付手続き2024/12/17
- 長時間労働者への実施が求められる医師の面接指導2024/12/10
- 36協定の限度時間を超えて時間外労働をさせる際の注意点2024/12/03
- 次世代法における一般事業主行動計画の策定等と改正2024/11/26
- 改めて確認したい労働時間の取り扱い2024/11/19
- 12月2日から変わる社会保険の資格取得手続き2024/11/12
- 自転車の危険運転に対する罰則の創設とその対応2024/11/05
- 今年も11月に実施される過重労働解消キャンペーン2024/10/29
- 2024年10月より支給要件が見直しとなった特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース)2024/10/22
- 厚生労働省調査からみる男女別の離職理由2024/10/15
- 連続する勤務や休憩時間に関するよくある質問2024/10/08
- 協会けんぽの被扶養者資格の再確認2024/10/01
- 30.1%まで上昇した男性の育児休業取得率2024/09/24
- 最大84円の引上げとなった2024年度の地域別最低賃金2024/09/17
- 企業に求められる過労死等防止のための対策2024/09/10
- 2023年度の労基署監督指導における賃金不払事案件数は21,349件2024/09/03
- 無用な解雇トラブルを防止するために知っておきたい解雇予告の注意点2024/08/27
- 厚労省審議会から示された最低賃金額改定「全国一律50円」が目安2024/08/20
- 電子申請が義務となる労働安全衛生関係の手続き2024/08/13
- 引き続きトップとなった「いじめ・嫌がらせ」の相談件数2024/08/06
- 2025年4月から厳格化される育児休業給付の延長手続き2024/07/30
- 増加する精神障害の労災支給決定件数 求められるハラスメント対策2024/07/23
- 来年4月に創設される「共働き・共育て」のための給付金2024/07/16
- 重要となる職場の熱中症予防対策2024/07/09
- 3年連続増加となった休業4日以上の死傷者数2024/07/02
- 特別休暇を設ける際のポイントと注目を浴びる孫休暇2024/06/25
- 今国会で改正された育児・介護休業法の概要2024/06/18
- 今国会で改正された雇用保険法の注目ポイント2024/06/11
- 賃上げに取り組む企業への公的支援2024/06/04
- 労災保険特別加入者の給付基礎日額の変更2024/05/28
- 在宅勤務手当と割増賃金の算定基礎等の整理2024/05/21
- 注意が必要な36協定の「1ヶ月の時間数」の考え方2024/05/14
- 障害者雇用の現状と障害者を雇用する際の課題・配慮事項2024/05/07
- 企業の不妊治療への支援制度と助成金制度2024/04/30
- 今後注目が高まる仕事と介護の両立における課題2024/04/23
- 業務災害で死亡や休業が発生した場合に提出が求められる死傷病報告2024/04/16
- 今すぐ確認したい転倒災害の現状と防止対策2024/04/09
- 今年も4月より始まった「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーン2024/04/02
- 労働基準監督署の「定期監督等」において違反件数が多い項目2024/03/26
- 労働者数が50人以上の事業場で求められる労働安全衛生法上の対応2024/03/19
- 3月分以降の協会けんぽの健康保険料率・介護保険料率2024/03/12
- 2024年4月1日から労災保険率が変更になります2024/03/05
- 広範な変更が予定される雇用保険法の改正動向2024/02/27
- 36協定を締結する際の注意点2024/02/20
- 4月より変更となる求人を行う際の労働条件の明示ルールの注意点2024/02/13
- 給与計算をする際に押さえておきたい端数処理の実務2024/02/06
- 民間企業の障害者実雇用率 過去最高の2.33%の実績2024/01/30
- 29.7%の企業が70歳まで働ける制度を導入2024/01/23
- 2024年4月から変わる無期転換に関する明示ルール2024/01/16